大判例

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秋田地方裁判所 平成9年(行ウ)11号 判決 1999年5月28日

原告

第一石油株式会社

右代表者代表取締役

伊藤幹

右訴訟代理人弁護士

関哲夫

被告

秋田県知事 寺田典城

右訴訟代理人弁護士

加藤堯

木元愼一

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第三 裁判所の判断

一  本件第一処分について

1  当事者間に争いがない事実及び〔証拠略〕によれば、まず、次の事実が認められる。

(一)  本件水面は、港湾法上の港湾区域内の水域であり、港湾法三七条により、国からのいわゆる機関委任事務として、港湾管理者の長である被告知事が管理する水面である。

また、本件土地は、秋田県が所有する土地であり、同土地を使用するについては、本件条例により、知事の許可を要するものとされ(本件条例三条一項)、使用の許可を受けた者は使用の権利を譲渡し、または転貸し、もしくは担保に供してはならないが(本件条例四条一項)、使用の許可を受けた者の相続人または承継人は知事の承認を得て許可に基づく使用の権利を承継することができるとされている(本件条例同条二項)。

右使用期間は原則として一年を越えることができないものであり(本件条例八条)、使用を許可された者は、港湾施設の使用を終了したときまたは使用の許可を取り消されたときは、ただちに知事の指示に従い原状に回復しなければならないとされている(本件条例一二条一項)。

(二)  昭和四七年九月一三日、シェル石油は、県有地一万九八〇〇平方メートルを取得して油槽所を建設した上、本件水面について、港湾管理者の長である被告知事から、昭和四八年七月二〇日に占用許可及び工作物設置許可を、同年九月一一日には、本件条例に基づき、被告知事から本件土地の使用許可をそれぞれ受け、地上油送管等からなる本件施設を完成し、操業を開始した。

(三)  シェル石油に対する許可は、昭和シェルを経て毎年更新されていたところ、昭和六〇年九月二七日、秋田製油は、昭和シェルから油槽所敷地とともに本件水面及び本件土地の使用占用権並びに本件施設を譲り受け、秋田製油は、同年一〇月一六日、昭和シェルが許可を受けていた標識、点検用ピット設置及び油送管埋設、消防保全区域及び消火用具格納小屋用地、ドルフィン設置、排水管埋設のための港湾施設用地使用の権利の承継を申請し、本件水面については港湾管理者の長である被告知事が港湾法に基づき、本件土地については被告知事が本件条例に基づき、そのころ使用の権利の承継を承認し、以後秋田製油は、本件施設を使用して操業していた。

(四)  秋田製油は業績不振となり、昭和六二年四月一日、破産宣告を受けたが、右同日、同社の破産管財人は、破産裁判所からは営業継続の許可を、本件土地については被告知事から本件条例に基づく使用許可を、本件水面については港湾管理者の長である被告知事から港湾法に基づく占用許可をそれぞれ受けて、本件施設の売却を図ったが実現せず、昭和六三年二月一日、これらの資産は財団から放棄された。

(五)  平成元年七月三一日、池田興産は秋田製油から油槽所敷地及び本件施設を買い受け、平成二年一〇月一六日、原告はこれらを池田興産から買い受けた。

なお、本件土地につき昭和六三年四月一日以降現在まで、池田興産あるいは原告が本件条例三条一項に基づく使用を許可されたこと、あるいは秋田製油が有していた使用の権利の承継を承認されたことはなく、また、本件水面についても池田興産あるいは原告が港湾法三七条一項の占用許可を受けたこともなく、秋田製油が操業を停止してから現在まで、本件施設において操業が行われたことはなかった。

(六)  平成三年二月一三日、港湾事務所長は、港湾施設用地を使用していて使用期間が同年三月三一日までとなっている更新対象者に対し、使用許可の更新申請をするよう促したが、原告は、同年三月中に更新申請をしなかった。

(七)  原告は、平成五年七月二六日、本件施設のうち、屋外タンク貯蔵所、屋内貯蔵所、移送取扱所、給油取扱所について、施設老朽化を理由に危険物貯蔵所・危険物取扱所の廃止の届出をした。

(八)  港湾事務所長は、平成八年五月一七日、原告に対し、本件土地及び本件水面に埋設又は設置されている送油管等について、無許可占有物で、既にその用途が廃止されており、権限なく占有しているので、油送管等のうち油送管約七六七メートルを速やかに撤去することを求める旨の文書を送付した。

(九)  平成八年六月二〇日、原告の相談役竹内陽一は、秋田県の港湾課を訪れ、「第一石油の旧施設をリニューアルし、石油製品自由化に対応し、同製品の貯蔵、拠出の基地としての事業再開を図りたい。」と述べ、これに対し、港湾課長は、「現油送管はかなり腐食し使用できない。」と笞えた。

(一〇)  港湾事務所長は、平成八年一〇月一日、原告に対し、同年五月一七日付けで撤去を求めた油送管について同年一〇月三一日までに撤去するよう求める文書を送付した。

(一一)  これに対し、原告は、平成八年一〇月一八日、平成三年度分から平成八年度分の本件土地及び水面の使用料・占用料並びに遅延損害金という名目で合計金六七八万一四九一円を秋田港湾事務所に持参したが、受領を拒否されたため、同日、右金額を秋田地方法務局に弁済供託した。

(一二)  原告は、被告知事に対し、平成八年一〇月二八日付けで本件土地及び本件施設につき港湾施設用地使用許可の申請をしたところ、被告知事は、平成八年一一月二〇日、<1>申請された本件施設は、昭和六三年四月以降、港湾管理者の許可を受けないまま放置を続け秋田県港湾施設管理条例第三条一項に違反している、<2>申請の油送管施設は、建設後既に二〇年以上経過し、さらに、長く維持管理がなされないまま放置されていたため再利用できないことは明白であり、油送管の一部について、港湾管理者がその撤去を貴社に要請している、<3>申請の場所の一部について、新たに工業用地として利用する計画があるため、申請の施設は障害となる、ということを理由に許可しない旨の本件第一処分をした。

(一三)  また、原告は、被告知事に対し、平成八年一〇月二八日付けで本件水面につき港湾区域内水域占用許可の申請をしたところ、被告知事は、平成八年一一月二〇日、<1>申請の危険物取扱所は、昭和六三年四月以降、港湾管理者の許可を受けないまま放置を続け秋田県港湾施設管理条例第三条第一項に違反している、<2>申請の危険物取扱所と一体をなす油送管の一部について、港湾管理者がその撤去を貴社に要請している、ということを理由に許可しない旨の本件第二処分をした。

(一四)  被告知事は、右両処分をするに当たり、いずれについても被告知事自身に対する異議申立てをすることができる旨を教示し、原告は、右教示に従い、本件第一及び第二処分について、平成九年一月一六日付けで被告知事に対し、異議申立てをした。

しかるところ、本件第二処分についての正当な不服申立庁は被告知事ではなく運輸大臣であるとし、平成九年五月一日付けで行政不服審査法一八条三頂の規定に基づき、本件第二処分についての異議申立てを運輸大臣に送付し、同月六日付け文書により原告にその旨を通知した。

(一五)  その後、被告知事は、平成九年七月七日付けで、原告に対し、本件第一処分についての異議申立てを棄却する旨の決定をなし、右決定書は同月九日ころ、原告に到達した。被告知事は、この決定書で、行政不服審査法四七条五項により、本件第一処分について自治大臣に審査請求できる旨教示した。

2  本件第一処分の違法事由として、原告は、まず、本件土地は「公の施設」に該当しないから条例で本件土地の管理等についての定めをおくことはできないと主張するが、港湾法第二条五項に規定する港湾施設内に存在する土地は、港というその施設の性質上、全体として「公の施設」に該当すると解されるから、本件土地の管理等について条例で定めることは許されるというべきである。

また、原告は、本件土地が「公の施設」に該当するとしても、港湾法は港湾地区内の港湾施設たる土地の管理に関する事項を同法又は同法に基づく命令もしくは条例の専管事項とする趣旨と解されるから、本件条例をもって本件土地の管理等について定めをおくことはできないと主張する。

しかしながら、地方自治体の財産に属する港湾施設の管理等に関する事項のうち、港湾法及び地方自治法により港湾管理者の長の権限とされている事項以外の事項については、港湾法上地方自治体が条例をもって定めることを禁止する規定はない以上、港湾法に抵触しない限り、地方自治体は「公の施設」に該当する港湾施設の管理等について条例をもって定めることができると解するのが相当であり、本件条例のうち、港湾法に抵触する部分は認められないから、原告の右主張は理由がないというべきである。

3  被告知事は、原告の本件第一処分に関する申請につき、本件施設は昭和六三年四月以降、港湾管理者の許可を受けないまま放置を続けたということを拒否理由の一つとしているところ、原告は、更新許可申請が遅れたことには正当な理由があると主張する。

しかしながら、秋田県土木部港湾課長が原告に対し、「油送管の使用は平成三年度までとしその後速やかに移設して欲しい。」とか、「共同防災費の未払金及び賃料の一部が滞っているので免除扱いにする。また免除対象者は更新斯間も基本的に三か年であり、貴社の現状に沿うので、被告知事において別途手続をする。」と話したことを裏付ける証拠はなく、また、前記1、(六)認定のとおり、平成三年二月一三日、港湾事務所長は、港湾施設用地を使用していて使用期間が同年三月三一日までとなっている更新対象者に対し、使用許可の更新申請をするよう促していることからすれば、原告を更新対象者として右通知を発したか否かはともかく、更新対象者であっても更新申請が必要であると明記されている以上、原告のみ更新手続きをすることなく、当然に更新されるという扱いを被告知事がとっていたとは到底窺えないから、更新許可申請をしなかったことにつき原告が主張するような正当な理由があるとは認められない。

4  また、原告は、更新を拒絶するためには、公用もしくは公共用に供するため必要を生じたとき又は許可の条件に違反する行為があると認められるときに限られるべきであり、本件においてはそのような事情は存在しないと主張するが、原告はそもそも本件土地に関する使用・占用権の譲渡の承認を受けていないから、本件第一処分は更新の拒絶ではなく、新規の申請に対する拒否処分というべきであるし、原告は本件施設を譲り受けながら、本件条例に規定された所定の手続を経ず、本件土地を無断で占有していたものであり、右手続を経なかったことにつき正当な理由がないことは前記認定のとおりであるから、原告の申請を拒絶したことが違法であるとはいえず、原告の右主張も理由がない。

5  さらに、原告は、本件第一処分は、原告が被る損害を補償することなく行われたものであるから、憲法二九条三項に反し、違法であると主張するが、原告が申請を拒否されたのは、原告が本件条例に定められた所定の手続を経ることなく本件土地を無断占有していたためであるから、そのため原告が本件施設の撤去等の義務を負うとしても、それを損害として秋田県が補償しなければならないものではないから、原告の右主張も理由がない。

6  以上のとおり、本件第一処分が違法であるとの原告の主張は理由がない。

二  本件第二処分について

1  被告知事の本件第二処分は、本件水面に関するものであるから、本件条例の適用はなく、したがって、本件条例に違反することを理由に拒否した部分は、原告の主張の当否を判断するまでもなく理由がないというべきである。

2  しかしながら、本件第二処分の拒否理由のうち、申請の危険物取扱所と一体をなす油送管の一部について港湾管理者がその撤去を要請しているという部分については、本件土地に関する原告の申請につき被告知事がこれを拒否する旨の本件第一処分をし、これが適法であることは前記認定のとおりであり、原告が本件施設のうち本件土地上に存在するものについて撤去義務を負うことになる以上、これと一体をなす本件水面にかかる施設についても、申請を認める理由はないから、右記載の理由により原告の申請を拒否した本件第二処分は違法であるとはいえない。

したがって、本件第二処分の違法をいう原告の主張は理由がないというべきである。

第三 結論

以上のとおり、原告の請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 手島徹 裁判官 田邊浩典 山下英久)

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